Growth Compass = 成長の羅針盤
子どもたちの成長の過程で、不安や、疑問が生まれ、途方に暮れてしまうこともあるかと思います。
子育てに奮闘するお父さん・お母さんのために、育児に関わるお悩みに、さまざまな角度からお応えし、羅針盤のように導いていく、各分野の専門家による、教育専門のコラムサイトです。
―くもんの知育玩具はすでに数多くが販売されていますが、なかでも「玉そろばん150」は、くもんならではの発想から生まれたものだとか。
これは150個(パネル3面に各50個)のそろばん玉が並び、150までの数の数え方を学べる商品です。普通、この手の知育玩具は50や100までしか数えないタイプが多いんです。でも、数を数える仕組みはまず1、2、3……、10の位では11、12、13……、そして100の位では111、112、113……と循環しているので、「最低でも120ぐらいまでの数え方を学べば循環を理解でき、その先の大きな数字も予測して数えられるようになる」と、創始者の公文公(くもん・とおる)は考えたのです。
―具体的にはどう使うのでしょうか。
幼児は数唱(声に出して数を数えること)はできても、モノと数字を対応させることはなかなかまだできないんです。例えば、8個しかないモノを10まで数えてしまったり。ですから「玉そろばん150」では、「1、2、3…」と声を出しながらそろばん玉を一つひとつ指で移動させて、数字とモノの関係をしっかり対応させられるようにします。また、そろばん玉は1レーンに10個ずつ並んでいるので、10の補数(合計すると10になる数の組み合わせ)も学べるんですよ。例えば、そろばん玉が左に1つ・右に9つある場合の合計は10だけど、左に3つ・右に7つの場合でも合計は10だと分かるようになる。しかも、その玉の組み合わせを目で覚えることにもなるので、数の組み合わせも頭の中でビジュアル的にイメージできるようになり、それが足し算・引き算の基礎にもなるのです。
―そういえば、普段私たちが暗算で足し算・引き算する際も、頭の中で両手の指やそろばんの動きなどを思い浮かべて数えていることが多いですね。
算数の基本は、とにかくまず数の数え方を覚えることなんです。それができてようやく足し算・引き算、さらに掛け算・割り算と順に理解できるようになる。くもんの教室でも数唱を徹底的に行っています。対象は0歳児から。この時期はまだ話すことも鉛筆で書くこともできませんが、耳の力はあります。教室で先生や年長の子どもたちが数唱しているのを歌のように聞いて、耳で数を覚えていくことができるのです。
―「小さいうちから英才教育?」と思う人もいませんか。
くもんがめざしているのは英才教育ではないんですよ。くもんの歴史は算数教室から始まりましたが、子どもたちに少なくとも算数だけは苦手に思わず好きになってほしい、そして早いうちに算数を理解して、その分音楽でもスポーツでも、自分のやりたいことをやる時間を作ってほしいというのが、くもんの考え方なんです。
―ほかにもいろいろな知育玩具を発売していますね。
『NEWたんぐらむ』も面白いですよ。これは木製のピースを用いてトンボ、キツネ、山などいろいろな形に組み変えていくものですが、完成させるにはピースを上下左右にしたり裏返したりと発想の柔軟性が必要。図形感覚はもちろん、「答えに詰まったらやり方をちょっと変えてみる」という思考回路も身につきます。子ども以上にお父さんがハマっています(笑)。
ほかにも、数の循環や配列を学べる『磁石すうじ盤』があります。また、直観力や集中力を養う『ステップアップジグソーパズル』、語彙を増やす『カード』シリーズ。パズルで分数を理解する『はじめての分数パズル』。
―開発する際に心がけていることは何でしょう?
まず安全で使いやすいデザイン・材質であること。そして、目的どおりの使い方がされる商品にすることです。ユーザーの声を聞き、気づいた点は即改良します。
親子や友だちと楽しめる玩具にすることも重要です。子どもは「勉強しよう」よりも「一緒に遊ぼう」と言われたほうが乗り気になるし、複数で遊ぶほうが言葉も増えてコミュニケーション力が身につきますから。特に、親より友だちと一緒に学ぶ効果は大きいですね。くもんの教室でも、普段は落ち着かない子も、周りの子がまじめに勉強していると「僕もやる!」と影響されます。少子化の時代だけに、子ども同士で学び合う場は大切です。
―モノがあふれる現代ですが、最近の玩具についてはどう思いますか?
大量退職する団塊世代をねらい、高級玩具を売り出す玩具メーカーが増えています。でも、くもんはそういうものを作る気はありません。算数力・学習力を育む知育玩具を作るという姿勢はこれからも変わらず、子どもや保護者の期待に応えるくもんであり続けたいと思います。
<インタビューを終えて〜記者の感想>
くもんの知育玩具が発売されて23年。森山さんの玩具開発の人生も、ほぼそれと重なるわけです。お嬢さんが子どものころは商品の反応を試す相手にしたりと、家族も巻き込んでの玩具開発だったとか。デパートに買い物に行っても「何かおもちゃになりそうなものないかなぁ」という目でついつい物を見てしまう。一つ商品が完成されても喜びに浸ることはなく、次は何を作るかでもう頭がいっぱいに。「前進あるのみなんです(笑)」(森山さん)。根っからの開発者なんだなぁと敬服します。
インタビュー:沢見涼子 写真:小橋城
【プロフィール】
森山 惠吾(もりやま・けいご)。大学でプロダクトデザインを専攻後、時計(クロック)のデザイナーとして就職。もともと玩具開発にも興味があり、知育玩具部門ができたばかりの当時のくもん(現・くもん出版)に移る。以後、知育玩具開発や教材幼児指導の分野に携わり、現職に。
くもん出版の公式サイトはwww.kumonshuppan.com