絵画は情報の宝庫 親子でいっぱい発見がある!

藤 ひさし(ふじ ひさし)

藤ひさしさん◎美術研究家

「子どもたちにたくさん絵画を見てほしい」というのは、DVD「右脳をはぐくむ こども世界名画の旅」(インテ刊)を監修している美術研究家の藤ひさしさん。3月20日(火)〜6月17日(日)に東京国立博物館で開催された「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」展で、日本初公開となる名画「受胎告知」の招聘を、舞台裏で仕掛けた人でもあります。親子で絵画を楽しむ方法や、ダ・ヴィンチ展で子どもたちに伝えたいことなどを聞きました。

▶ DVD「右脳をはぐくむ こども世界名画の旅」(インテ刊)

―「子どもに絵画を見せても、まだ理解できないのでは?」と思う大人も多いようですが……。

そんなことはありません。むしろどんどん見せてあげてほしい。というのも、絵にはたくさんの情報が詰まっているからです。描かれている人物の服装や小物、景色などから、その時代や生活、人間の内面、さらには画家が何を伝えようとしていたかも見えてきます。ただ美しいからとか、上手だからというだけではなく、見れば見るほど面白く、引き込まれていく。だからこそ、絵画は、何百年もの間、人々を魅了し続けているのです。

こどもと絵を見ながら、「この絵の人は何をしているんだろうね?」「隅に描かれたこの道具は何かな?」などと話をしてみて下さい。そうすると絵はもっと楽しくなるし、観察力や想像力も育まれます。親子のコミュニケーションにもなります。

―そういえば、藤さん監修のDVD「右脳をはぐくむ こども世界名画の旅」も、絵画一枚一枚を見ながら、細部まで鑑賞していく内容ですね。その絵の歴史なども分かって、大人が見ても勉強になりました。

もちろん、小さな子どもに最初から歴史や知識を覚えさせる必要はないんですよ。まずは絵を自由に見ることが大切。その絵について自分なりのストーリーを作ってもいい。そうした繰り返しが右脳を鍛えたり、集中力や思考力を育てるのだと思います。

いまの子どもの周りにはたくさんの情報があふれています。その中で、正しい情報を見抜くことは難しくなっています。絵画をたくさん見ることは、自分で物事を読み取とる力を養うことにもなると思います。

―ところで藤さんは、3月20日からの「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」展(主催:「イタリアの春2007」実行委員会ほか)の企画も手がけたとか。イタリアの至宝といわれる「受胎告知」が展示され大きな話題ですが、見どころは?

「受胎告知」は、聖母マリアがイエスを産むと大天使ガブリエルから告げられるシーンを、ダ・ヴィンチが20歳ごろに描いたデビュー作ともいえる作品です。そして、画家であると同時に優れた科学者でもあった彼にとって、この作品は自分の知識を試す最初の実験場でもありました。

例えば彼は、空気中には水蒸気が含まれており、そのために遠くの景色ほど青みがかって見えるということをすでに知っていました。絵の背景を描く際にはその知識が取り入れられ、後に「空気遠近法」と呼ばれたのです。また、自然観察にも大変興味を持っていたので、花々や天使の羽も非常にリアルに描いています。

さらに、人物を何度も重ね塗りして、ぼかして立体感を出すという手法「スフマート」も生み出しました。

ただ、何事にも完璧を求めたがゆえに彼の筆は遅く、生涯で自身が描いたとされる絵画は10枚程度しかありません。その一方でたくさん残したのは、観察記録や発明品の設計図など「手稿」といわれるもの。1万枚描いたといわれる手稿のうち、現在約6000枚が残っています。

―今回の展示では、そうした手稿を見やすく解説したものや、実際に再現した作品も展示されると聞きました。

ダ・ヴィンチが「手稿」に描き残したものを元に作られたおもしろい模型がたくさん展示されますよ。完成すれば高さ7メートルはあった騎馬像の前脚や、飛行船、それにライオンのロボットも。現在は当たり前に存在するものを、ダ・ヴィンチは当時もう考案していたんですね。

実は、私が今回ダ・ヴィンチ展を企画したのは、日本の子どもたちに彼の手稿をぜひ見てほしかったからです。ダヴィンチは「自然に学べ」という言葉を残しています。自然の中には不思議がいっぱいあり、同時にさまざまな解決策も潜んでいるという意味です。実際、彼は鳥の羽をつぶさに観察することで、空を飛ぶには空気の抵抗が必要なことも発見しました。最近の子どもは自然の中で遊ぶ機会が減りましたが、ダ・ヴィンチの作品に触れることで、自然から学ぶ心や、未知のことに関心を持ち挑戦する気持ちを、たくさん持ってほしいのです。

―そういう気持ちは、大人にも大切なことですね。

そうなんですよ。子どもにいくら夢を持てと言っても、大人が夢を持っていなければ伝わりません。だから、ぜひ親子そろって芸術に触れて、一緒に夢や想像を膨らましてほしい。幼いころに見た絵画や芸術は、そこに描かれていた植物や歴史などいろいろな分野に興味を広げていくきっかけにもなるはずです。

<インタビューを終えて〜記者の感想>

「受胎告知」がヨーロッパから出るのは初めて。所有するイタリアでは、国の至宝を日本に貸し出してよいのか大きな論争になったとか。けれど、「日本の子どもたちにダ・ヴィンチの作品を見せたい!」という藤さんの強い思いが周りを動かしました。「ダ・ヴィンチのように未知に挑戦する心を持って」と子どもたちに願う藤さん。まずは自らの行動で、それを示したともいえるでしょう。

インタビュー:沢見涼子 写真:小橋城

DVD「右脳をはぐくむ こども世界名画の旅(2巻セット)」(インテ刊)では、ダ・ヴィンチ、ラファエロ、モネ、レンブラントなどのヨーロッパを代表する画家の名画を紹介。「この絵の場所はどこだろう?」などと細部に注目しながら、絵に秘められたストーリーや歴史も学びます。作品だけでなく画家や美術館の歴史にもスポットを当てていて、大人にも面白い内容。親子で楽しめます!

藤 ひさし(ふじ ひさし)

【プロフィール】
映像作家。1940年、東京都生まれ。中央大学フランス文学部卒業後、コピーライターを経て、現在は主に美術関連のTV番組、映像製作物の脚本、プロデュースなどを手がける。
主な作品として「NHK名曲アルバム」「モーツァルトの風景」「世界の美術館」「NHKきょうの料理」など
3月20日〜6月17日に開催される「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」展の実行委員会事務局を立ち上げる。