物語を好きになって何度も読めば、いつの間にか英語も大好きに!

日本のロングセラー絵本を英訳
〜世代や国境を越えて親しまれるように
原田真理子さん◎児童英語教師、Sunny English主宰

原田真理子さん◎児童英語教師、Sunny English主宰

「オックスフォード・リーディング・ツリー(ORT)」は、子ども向けのリーディング教材。オックスフォード大学出版局がイギリスで20年前に出版し、日本ではその一部、幼児・児童向けの「キッパー」シリーズが10年前から発売されています。主に英語教室で使われていますが、最近は一般家庭での人気も高まっています。児童英語教師で、ORTを授業に積極的に導入している原田真理子さんに、家庭でORTを使うポイントなどを聞きました。

―ORT(オックスフォード・リーディング・ツリー)は、イギリスでは国語の授業でも使われるリーディング教材だとか。

イギリスには日本の検定教科書のようなものはないのですが、約8割(1万6000校)の小学校がORTを国語の教科書として採用しています。「リーディング・ツリー」の名からも分かるようにORTにはたくさんのシリーズがあり、習得すると次のステージへと、まさに木の枝を渡りつなぐように読み進める仕組みです。日本で発売されているのはその一部、「キッパー」という4歳の男の子とその家族を主人公とした絵本シリーズです。幼児・児童が対象で、日常生活を題材にした物語なので出てくる単語や表現も普段使うものばかり、すぐに実践に役立ちます。
 本国イギリスでは絵本単体での流通ですが、日本では日本語の訳と解説書、そしてイギリス英語とアメリカ英語(ステージ1〜5のみ)のCDも付けた「スペシャルパック」が発売されています。世界の約7割はイギリス英語を学んでいますが、日本はアメリカ英語が主流ですからですね。

―原田さんは、ご自身の英語教室でORTを積極的に活用されているそうですね。

正直言って、最初は半信半疑だったんですよ(笑)。というのも、最初に読む「ステージ1」(の最初の2パック)の本には字がなくて、絵しか描かれていない。「ステージ1+」以降は徐々に文字や文章が増えていきますが、幼児向けなのに最初から過去形や完了形、構文まで出てくる。「これで本当に英語を覚えられるの?」と思いました(笑)。
 ところが、試しに息子に絵本を見せてCDを聞かせてみたら、息子がキャッキャと喜んで何度もページをめくるんです。そしてある日、絵本のセリフを最初から最後まで間違いなく暗唱してみせて、しまいには日常生活でも応用し始めました。「これはスゴイ!」と、さっそく教室でも導入しました。教室の子どもたちの反応もやはり息子と同様。2歳の子も含めてみんな物語に夢中です。

―子どもたちはなぜそんなに反応したのでしょうね。

やはり物語に魅了されたのだと思います。主人公キッパーは自分たちと同じ年代ですし、成長したら、今度はキッパーの双子の兄姉チップとビフに自分を投影させる。ストーリーも思わずクスッとする内容で、絵は男の子にも女の子にもウケるテイスト。また、たくさんの「かくれキャラ」もいて、それを見つける楽しみもあるんです。絵本の作者ロデリック・ハントは、自分の息子の国語の教科書を見て「もっと面白い教科書が必要だ!」と思い、当時偶然出会った画家アレックス・ブリクタと意気投合して、このキッパー・シリーズを生んだそうです。

―読んでみると、私たちが高校生になってようやく学んだような英単語や表現も、当たり前に出てきますね。

そうなんですよ。でも、子どもたちのやわらかい脳は、そんな表現もすぐに吸収します。たとえば、間仕切りの向こうの見えない相手に「Who is it?」(あなたはだれ?)と言うシーンがありますが、こうした場合決して「Who are you?」とは言わないのだということも疑問なく受け止めます。また、「Mum was cross.」(ママが怒った)という表現も出てきますが、「cross」には「十字架」「交差点」等だけでなく「怒る」の意味もあること、また同じ「怒る」でも「upset」「angry」はどうニュアンスが違うのかなども、物語のなかで自然に会得できます。

もし意味の分からない文があっても大丈夫。絵を見れば、文の意味が推測できます。そこまで配慮されて絵が描かれているのも、ORTの優れた点ではないでしょうか。そして、こうした視覚からの情報とストーリーがあるからこそ、英語はさらに覚えやすいんです。

ですから、「子ども以上にORTを気に入った」という保護者の方もたくさんいらっしゃいます。大人にとっても有意義な英語教材だと思いますよ。ぜひ親子で一緒に読んで、コミュニケーションも深めてほしいですね。

―ORTを家庭で使う上で、心がけると良いことは?

いちばん最初の、絵しかない「ステージ1」からしっかり読んでほしいと思います。なぜなら、まず物語の主人公たちを知ること・好きになることが、その後の継続に欠かせない一歩だから。保護者向けに解説や例文もあるので参考にしながら「いまキッパーは何をしているのかな?」「これは何だと思う?」と、日本語でもいいので親子で話しながらページをめくってください。

そして、もうひとつ必要なのは「多読」。“この本はもう読んだから、次の本にしようね”などと急がず、一冊の本を何度も、子どもが読みたいだけ読ませてあげてください。子どもは暗唱はできても文字までは理解していないことが多いので、繰り返し読むことが大事です。

―最後に、読者にメッセージをお願いします。

英語を「学ぶ」というよりも「楽しむ」という気持ちを大切に。そして、大好きな物語を親子そろって多読して“タドキスト”になってほしいですね(笑)。それが英語を身に付ける最も自然で近道の方法だと思います。

<インタビューを終えて〜記者の感想>

原田さんがご自分で児童英語教室を開いたのは、「納得のいく教育を、納得のいく最低限の教材で行いたい」という思いから。そんな折にORTに出会ったのだそうです。現在、さまざまな英語教育現場で活躍する原田さん。その一つ、教会の子ども英語教室での教え子たちは、教会に来るフィリピンやインドなどさまざまな国の子どもたちと、英語で遊んでいるのだとか。「いまや“日本にいるから英語は必要ない”という時代ではないですよね」(原田さん)というように、大人だけでなく子どもにとっても、英語を話せると楽しい出会いがたくさん広がる時代になったのだなと思います。

インタビュー:沢見涼子 写真:小橋城

原田真理子さん◎児童英語教師、Sunny English主宰

【プロフィール】
<はらだ・まりこ>神田外語大学卒業。ホテル勤務の後、結婚・退職を機に民間企業のフランチャイズによる英語教室を開校。2000年に独立し、幼児・児童を主な対象とする英語教室「Sunny English」を開校・主宰。また、横浜市の小学校で英語教育サポーターを務めるなど、さまざまな英語教育現場に従事する。日本多読学界・児童英語部にも所属。英語の多読を子どもから大人にまで普及・推進しようと取り組み、ORTを活用した多読についても各地で講演している。