日本のロングセラー絵本を英訳 〜世代や国境を越えて親しまれるように

ジョン・ムーアさん◎アールアイシー出版株式会社 代表取締役社長

ジョン・ムーアさん◎アールアイシー出版株式会社 代表取締役社長

「はじめてのおつかい」「モチモチの木」など、長く親しまれている日本の絵本を英語版で出版し、日本はもとより海外でも販売しているアールアイシー出版のジョン・ムーアさん。なぜ日本のロングセラー絵本を英訳しようと思ったのでしょう。そのきっかけや出版にあたってのこだわり、そして親子で絵本を楽しむためのアドバイスなどを聞きました。

―そもそもアールアイシー出版の成り立ちとは?

今から25年前、オーストラリアの小学校教師3人が「自分たちにとっての理想の教材を作ろう(By Teachers For Teachers)」という理念のもと始めた出版社です。社名は3人の名前の頭文字(Rik,Ian,Chris)をとって名づけられ、世界各国で現在900タイトル以上の商品を提供しています。そのR.I.C.Publishing Groupの一員として、2002年11月に私が代表取締役社長となって設立したのが、日本の「アールアイシー出版株式会社」です。

―日本での会社設立に、ムーアさんがかかわることになったきっかけというのは…?

実は私はイギリスの大学で英語教師の資格を取り、卒業後はアジアの国で英語教育に携わりたいと思って20年前に来日しました。以後、日本の短大等で英語を教えたり、英語教材を扱う海外出版社の日本支部でビジネスマンをしたりしてきたのですが、あるとき「日本のロングセラー絵本を英訳して販売したい」と思うようになったんです。日本を題材にした絵本だと子どももスムーズに英語を学びやすいし、親も、かつて読んだ日本語の文章を思い出しながら「英語だとこう表現するのか」と新鮮な感動を持って楽しめますからね。

そのアイデアをR.I.C.Publishing Groupに持ちかけたところ賛同してもらうことができ、日本での会社立ち上げと、絵本の英訳・販売に至ったわけです。

―英訳での出版に当たって、苦労した点やこだわったことは何ですか?

苦労したといえば、右開きで始まる日本の絵本を、英語用に左開きにするため、イラストを反転しなければいけないケースもあったことなどでしょうか。また、英訳すると日本語の原文よりも長文になってしまう場合もあり、それをどうスペースに収めるかにも苦慮しました。版元の理解を得ることも重要なポイントでしたね。

こだわったのは、ネイティブスピーカーによる英語の朗読CDもセットで付けたということです。これなら「子どもに絵本を読み聞かせたくても、英語ではどう発音したらいいのか分からない」という保護者の方にも安心ですし、子どもも正しい発音を習得しやすくなります。CDには「全文朗読」「1ページずつ朗読」「スロー朗読」など3パターンが収録(※一部非対応)されていますので、英語に慣れない日本のご家庭では、最初は「スロー朗読」からトライしてみてください。その際、絵本の文字を指さしながら追って聞くといいですね。「スロー朗読」の次は「1ページずつ朗読」、次は「全文朗読」と繰り返せば、吸収力のある子どもの頭なら覚えてしまうでしょう。

―その英訳絵本ですが、日本のみならず海外でも幅広く販売しているそうですね。

英訳を始めようとした当初、日本の絵本は海外ではほとんど英訳や紹介がなされていないと知ったんです。諸外国の出版社なら、自国の絵本を海外に売り込むのに非常に熱心なんですが…。「日本にも優れたロングセラー絵本がたくさんある。もっと海外に発信しなければ」、そんな思いから、韓国、台湾、マレーシア、シンガポールなどアジアの国々や、オーストラリア、アメリカなどに、私自ら積極的に出かけて紹介しています。

―海外での読者の反応はどうですか。

イラストやストーリーの好みが日本人と異なる場合もあるのが興味深いですね。例えば、「はじめてのおつかい」のようなイラストの感触は、日本やアジアの国々ではウケますが、ヨーロッパやアメリカでは違うテイストにしたほうが好まれるようです。また、「子どもを一人で買い物に行かせる」というストーリーは、アメリカではなんと“児童虐待”と受け取られる恐れがあります。私にとっては大好きな絵本の一つなんですが(笑)。

「モチモチの木」は、欧米でも人気があります。「夜中に一人でおしっこに行くのは怖い」というストーリーは、どこの国の子どもも共感できるからでしょう。ほかにも「場面設定は違うけど、似たような童話がうちの国にもあるよ」と言われる物語もあります。国を越えて普遍的なテーマの作品は、今後も英訳していきたいと思います。

―いろいろな作品がありますが、親は子どもに絵本を与える際、どんなことを心がけたら良いでしょう。

子どもに絵本を選ぶのはたいていお母さんですが、もっとお父さんに選んでもらいたいですね。お母さんはほのぼのとしたストーリーを選ぶ傾向がありますが、お父さんだとワクワク・ドキドキする冒険物をよく選ぶ。そうした違う視点も子どもに必要なんです。読み聞かせもお母さんだけでなく、お父さんも一緒になってやってほしい。アクターやアクトレスになった気分で声色を変えて読んであげれば、子どもはもう大喜びですよ。最低でも1日1回、夜寝る前などに読むのがいいでしょうね。

また、絵本のストーリーは本を開いてからではなく、実は表紙から始まっているともいえます。ですから、すぐに読み始めるのではなく、まず表紙を子どもとじっくり見て、「この絵は何だと思う?」などと親子で会話することから始めましょう。すると子どもは「早く読みたい!」という気持ちでウズウズして、物語への興味をいっそう強くします。すぐ読み終えて「え、もうおしまい?」「絵本ってつまんない」なんて思わせたら、子どもはもう読みませんからね。子どもの読書欲をかき立てるような工夫、それが一番大切だといえます。

<インタビューを終えて〜記者の感想>

日本に来て20年というだけに、ムーアさんは流ちょうな日本語で取材に応じてくださいました。でもそれも、「日本にとどまって仕事をする」と決意してから、必死でつかんだ能力なのだそうです。「日本にはいい絵本がいっぱいある。日本の漫画やアニメが世界で人気になったように、絵本だって海外でもっと高く評価される可能性がある」と熱く語るムーアさん、実は「しゅくだい」の英訳絵本では自身が英語CDの朗読を担当しています。日本と世界のいわば「架け橋」ともいえるこうした仕事は、英語教師とビジネスマンとしての経験、そして20年にもわたる日本での生活があるムーアさんだからこそ、担えているのかもしれません。

インタビュー:沢見涼子 写真:小橋城

CD付ロングセラー英語絵本シリーズ

ジョン・ムーアさん◎アールアイシー出版株式会社 代表取締役社長

【プロフィール】
<じょん・むーあ>1962年イギリス生まれ。ノッティンガム・カレッジで英語教師の資格を取得。卒業後の1989年に来日し、日本の英会話学校や愛知学院短大などで英語を教える。また、オックスフォード大学出版局など海外出版社の日本支部の仕事も歴任。2002年11月、R.I.C.Publishing Groupとしてアールアイシー出版株式会社を設立し、代表取締役社長に。