幼少期の英語は音のシャワーと、正しい発音が身につくフォニックスで

松香洋子さん◎松香フォニックス研究所所長

松香洋子さん◎松香フォニックス研究所所長

今回のゲストは、松香フォニックス研究所(https://www.mpi-j.co.jp/)の所長・松香洋子さん。子どもの英語教育現場に長く携わり、毎年全国100校を超える小学校で英語活動のアドバイザーや顧問を務めています。また、「えほんでフォニックス」などフォニックス関連の書籍&CDも数多く出版。そんな松香さんに、フォニックスの意義や、家庭での英語教育の進め方などを聞きました。

▶ 松香フォニックス研究所(https://www.mpi-j.co.jp/)

―フォニックスとはどういうものでしょうか。

たとえば、アルファベットの「A」は「エイ」という呼び名ですが、発音は「アッ」ですよね。そして「B(ビー)」は「ブッ」、「D(ディー)」は「ドゥッ」と発音する。こうしたアルファベットと実際の発音の関係を一つ一つ学ぶことをフォニックスといいます。

―なぜこのような学習が必要なのですか。

日本語のひらがなであれば、たとえば「あ」は「あ」という呼び名であり発音でもある、つまり「表音文字」なので子どもは比較的簡単に覚えます。でも、英語のアルファベットは呼び名と発音が異なる「表記文字」なので、単語を読めるようになるまで一苦労する。だから、「DOG(犬)は“ディー・オー・ジー”と読むのではなく、D(ドゥッ)、O(オッ)、G(グッ)という発音を組み合わせて“ドッグ”と読むんだよ」と大人が導く必要があるのです。

フォニックスが学習法として確立されたのは19世紀末ごろ。英語圏の国では家庭でも行われています。

―でも、日本ではあまりなじみがない気がします。

松香洋子さん◎松香フォニックス研究所所長中学英語も、フォニックスではなくいきなり単語を覚えることから始めますからね。それどころかカタカナでルビをふって覚えさせるケースもある。だから日本人は正しい発音が身につかないのだといえます。たとえば「Year(年)」も「Ear(耳)」も、カタカナで書けばどちらも「イヤー」だけど、「Year」の「Y」は本当はもっと強く発音しなくてはいけない。日本人の発する「Happy new year!」(新年おめでとう)では、外国人からすると「日本人は耳を毎年新しく付け替えているの?」と笑い話になっちゃうんですよ(笑)。「Y」をきちんと発音できる日本人は、わずか1%とさえいわれます。

―日本人の苦手な発音は「R」だとよくいわれますが、それだけではなかったんですね…。

正しい発音習得のためにも、フォニックスは大切です。大人になるほど、微妙な発音の違いは認識しにくくなりますから。幼少期には、はじめに英語そのものに親しんでから、音声をまずはキャッチして、それからフォニックスで発音と文字をつなげていくべきです。

言葉のリズムや音の高低も、幼少期から体で身につけていくものです。まず赤ちゃんは、周囲の声のリズムに合わせて手足をバタバタさせているといわれます。そして、「あ〜」「う〜」と発する声も、その国の言語の発音にだんだん近づく。これを「同調作業」といいます。

次に大事なのが、発した言葉を文字で確認すること。たとえば「ワッチュアネイム?」と発したことが「What is your name?」(あなたのお名前は?)だと文字で確認できるようになって、言葉に安心が持てるのです。

こうしたプロセスが英語習得でも自然に行われるのが理想ですが、日本語の生活環境では難しい。そこで私がまとめたのが、体を動かしながら英語を学ぶ「The Wiggle Book」(くねくねブック)や、しつけに必要な言葉を学ぶ「The Hot Book」(あっちっちブック)などです。

―親子一緒に楽しく話しながら学ぶ内容の教材ですね。

言葉は単に記憶するだけではなく、人との関係(インタラクション)がないと定着しないんです。教材を与えっぱなしにするのではなく、ぜひ親子で語り合いながら取り組んでください。

また、英語を話すときのしぐさや動作も知っておきたいですね。たとえば英語で「Hello!」「Hi!」(こんにちは)と言うときはおじぎはせず、手を上げて挨拶したり、握手したりするでしょう? こうした「空間処理」も相手に意思を伝える際の大事な要素です。

実は、人がバーバル(言語)で情報を伝える部分はわずか3割で、残り7割はノンバーバル(非言語)で伝えているといわれます。言葉は、文化やしぐさなどいろいろなものを背負っているんです。

―「英語を教える前に、日本語や日本文化をまずしっかり教えるべき」という人もいますが…。

大事なのは、英語と日本語をきっちり区別すると同時に、どちらの基本も押さえて教えることではないでしょうか。いまや日本語のうち外来語が15%を占めるといわれますが、“「Ticket(券)」は、日本語では「チケット」と言うけど、海外では「ティケットゥ」と発音しないと通じないんだよ”などと、区別して使うことも教えるべきですね。

外国語の発音や、その言葉特有のしぐさや文化を学ぶことは、子どもの視野を広げます。日本語式の表現方法や思考方法しか知らずに育った子は、何か問題に突き当たった際も限られた方向性しか見つけられず、心理的に追い詰められたりしてしまうのではないでしょうか。最近の引きこもりや自殺、いじめなどの問題とも無関係ではないと思います。豊かな心を育む一つとしても、英語教育を捉えてはいかがでしょう。

<インタビューを終えて〜記者の感想>

30年前、当時では珍しい子連れ留学をしただけあり松香さんはパワフル。著書「娘と私の英語留学記」(玉川選書)はいまも、留学志望の母親たちに読まれています。中でも興味深いのは“質問人間”になるススメ。「他人の発言に注意深く耳を傾け、自分の経験、考え方に照らして疑問と思うことはすぐにその場で問い、自分の認識や経験を豊かにしようとする人間像」、それが質問人間だと。日本人は質問がどうも苦手。「母親の社会参加が進んだ」といわれる昨今ですが、相手の話を積極的に聞く姿勢をもつことも社会参加の要だと教えられます。

インタビュー:沢見涼子 写真:小橋城

松香洋子さん◎松香フォニックス研究所所長

【プロフィール】
松香洋子(まつか・ようこ)。玉川大学英米文学科、イギリス留学、早稲田大学英語学専攻科を経て、1975年に2人の子を連れアメリカ留学。78年、カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校修士課程卒。93年、ユトレヒト大学(オランダ)で客員研究員に。現在、松香フォニックス研究所所長のほか、玉川大学・大学院講師、NPO教育支援協会特別顧問、J-SHINE小学校英語指導者認定協議会理事・認定委員を務める。著書は「英語、好きですか」(読売新聞社)、「発想転換の子ども英語」(丸善)ほか多数