マザーグースを知れば 「それって分かる!」にたくさん出会える

原 維都子さん◎コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社 理事

原 維都子さん◎コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社 理事

子ども向けの音楽・映像教材などの企画・制作に長年携わってきた原維都子さん。これまでに数多くの作品にかかわってきましたが、なかでもイギリスやアメリカの伝承童謡をまとめた「マザーグース英語のうたDVD5巻セット」「ジム・ヘンソンのおはなしマザーグースDVD5巻セット」は、思い入れが強い作品の一部とか。マザーグース関連教材の魅力や、制作にまつわるエピソードなどを聞きました。

―そもそも「マザーグース」とは?

マザーグースはイギリスやア メリカで語り継がれているさまざまな童謡や物語の総称です。アメリカではお母さんガチョウがみんなに話して聞かせる形で親しまれ「マザーグース」と呼ばれていますが、イギリスでは「ナーサリー・ライム」(幼児の詩)と呼ばれています。

マザーグースの優れた点は、日常よく使う表現や単語が多用され、韻も踏んでいて、英語を学ぶ上で必要な要素が入っていること。そして、大事な教訓やことわざも含まれていて、楽しみながら多くを学べるという、実によく作られたものなんです。

―それを日本の子どもたちも楽しめるようにと制作したのが「マザーグース英語のうたDVD5巻セット」ですね。

全5巻に計100曲が収録されています。実際に現地イギリスで子どもたちに歌ってもらい、イギリスの美しい風景映像をそこに重ねて仕上げました。日本でマザーグース関連の教材といえばアメリカ英語版が多いのですが、私たちはイギリス英語版作りにこだわったんです。

同じマザーグースでも、地域によって微妙に言い回しやメロディーが違うので、どの表現が最も適切かを調べるのには苦労しましたね。現地の合唱団を指導している先生に「この表現は古い。現代ならこう言う」と一つひとつチェックしてもらうことから作業は始まりました。

―歌う子どもたちはどのように選んだのですか?

当初はプロの児童合唱団の起用も検討したのですが、歌声がきれいすぎて、私たちが求める「子どもらしい」声とはどうも違う。もっと普通で身近な子どもの歌声がほしいと、イギリス国内の小学校の中から音楽に熱心なことで定評のあるところを探し、その中でも歌のうまい子たちを集めて合唱団を編成したんです。

ただ、子どもたちをまとめるのは大変でしたね。なにせ相手は子どもですし、さらに私たちは言葉が通じないわけですから。でも、男の子だけが歌うシーンのとき、何気なく「頼むわよ、ジェントルマン(紳士)!」と声をかけたら、みんな急に真剣になって、すごく頑張ってくれたんです。「ジェントルマン」という言葉にこれほど反応するとは、さすがイギリス人だと感心しました。

でもその後、「今度はうるさいくらいに歌ってみよう」とアドバイスしたら、本当にうるさすぎになってしまって…(苦笑)。素直な子どもたちなんですよ。

―その後、映像撮りの作業に移るわけですね。

英語の歌の映像作品の場合、たいていアニメ映像が多いのですが、私たちは実写でイギリスらしい街並みや田園風景、実際の生活感を入れることにこだわりました。実写なら、一緒に観るお母さんも楽しめますしね。

イギリスで制作して良かったと思うのは、第1〜3巻から第4〜5巻を作るまでの間に7〜8年が経っていたんですが、子どもたちの服装がほとんど変わっていなかったということ。さらに景色や街並みもあまり変わっていない。ですから、制作後に年数が経ってもさほど古さを感じず、長く楽しめるんですよ。流行よりも古き良きものを大事にする、これがイギリスなんだとも実感しました。

―「ジム・ヘンソンのおはなしマザーグースDVD5巻セット」も扱っていますね。

これはマザーグースの歌の世界を、セサミストリートのマペットを制作したことで有名なジム・ヘンソンが人形劇にしたものです。マザーグースの一節は日常会話でもよく引用されますから、歌の背景を深く知ることはとても意義があるので扱うことにしました。でも、大変だったのは和訳。当然プロに依頼しましたが、自分も英語を勉強し直す動機になりましたね。しかも、義務教育で習ったアメリカ英語ではなく、イギリス英語を一から。そのはっきりとした発音がすっかり気に入ったんです。

―マザーグース教材を手がけて、ご自身の生活でも何か役立つことはありま したか?

友人とある日アイリッシュ・パブに行ったら、各国を旅して明日イギリスに帰国するという男の子に出会ったんです。名前はトニー君というんですが、なんと自己紹介のときに自分の足のつま先とひざを順に指差して「僕の名前はToe, knee(トゥ、ニィ):トニー」だって言うんです。「あ、それ知ってる! マザーグースの『頭と肩、ひざとつま先』(Head, shoulders,knees and toes)の歌でしょ?」と私が言ったら、トニー君は「何で知ってるの?!」とびっくりして。思わず一緒に歌い出しましたね、振りまでつけて。パブの店員さんやお客さんは「いい大人が何やってるんだ」と笑って見ていましたが(笑)。マザーグースでこんなふうに友だちもできるんだなぁと、忘れられない出来事となりました。

―DVD2作品を観るに当たってのポイントは?

まずは楽しんで観てほしいですね。イギリスの美しい街並みや田園風景などの映像を観ながら、「いつか行ってみたいな」なんて思ったりして。そういう気持ちがあると、「いつか行く日のために英語を学ぼう」という意欲にもつながるかもしれないですしね。

それに、欧米の映画や本にはマザーグースの一節を引用している場合も多いんですよ。知っておくと「それって分かる!」と映画の面白さをもっと理解できるし、それでまた友だちとの会話も弾みます。マザーグースを知れば、よかったと思うことがたくさんあるはずですよ。

<インタビューを終えて〜記者の感想>

なんとアルバイトから入社後、一貫して教材制作に携わってきた原さん。とかく音楽業界というと華やかな部門が人気ですが、原さんは教材制作が大好きでこだわってきたそうです。と同時に、長年携わる人でないとできない専門分野ともいえるでしょう。原さんがこの仕事をして良かったと思うのは、子どもたちが自身の映像作品にかじりついて、親に呼ばれても離れない姿を見かけたときや、一度手がけた教材が10年・20年経っても販売されているということだとか。はやりすたりの激しい今の時代、息の長いものを世に生み出すというのは大変なこと。これからも応援したくなりました。

インタビュー:沢見涼子 写真:小橋城

原 維都子さん◎コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社 理事

【プロフィール】
<はら・いつこ>大学で幼児教育(音楽)を専攻。教員をめざしていたが、教職に就くことに疑問を感じ始めていたところへ、コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社の教材制作の仕事を紹介され、アルバイトを経て入社。以後、一貫して教材制作部門を担当。音楽・映像教材の制作や、音楽の教科書の制作にも携わる。現在、同社理事 コロムビアハウス制作部 チーフ・プロデューサー(エデュケーショナル制作担当)
同社のサイト:http://columbia.jp/(パソコン・携帯共通)